元彼女として


 差し出された左手を握ると、わたしより小さな手のひらがぎゅっと強く握り返した。子どもみたいな手だった。そんな幼さをまるで打ち消すかのように、あなたは代々木公園の中をわたしより先にずんずん歩いて行く。いつの間にか始まった夏に早足が重なって、心も体も何だかついていけなかった。告白してくれた直後だったのにその手は全然汗ばんでなくて、今思えばそれがそのまま、あなた自身を表していたのだと思う。

 

 とも君は私より背の低い恋人だった。ちゃんと背比べしたことがなかったから、どれくらい差があったかわからないけれど、手を繋ぐとグッと下にひっぱられていたから、そのひっぱられた分だけ身長の差があったのだと思う。そのグッと下がるときの感触は今まで感じたことのない気持ちを呼び起こしたし、近い言葉だと愛おしいが似ていたように思う。たぶんとも君はそのことを気にしていて、ぜったいに立ったままハグしてくれなくて、わたしが横になるのをちゃんと待っていて、それはご飯をおあづけにされている犬みたいだった。

 

 とも君とは去年にお別れをしたのに、おととい突然連絡がきた。おそらくクリスマスを目の前にして寂しくなって、隣にいる誰かを一生懸命探しているような感じだった。元彼女としてどうすれば良いのか考えて、彼が「寂しさのあまり元彼女とクリスマスを過ごす男」という人間に成り下がらないように、お断りすることが適切だと判断した。

 

 よく、男性は名前をつけて保存、女性は上書き保存というけれど、とも君のことは頭のどこかにちゃんと保存されているはずだった。けれど、日々OSがバージョンアップされていく中、いつの間にか彼らのデータは古いバージョンになっていて、久々に開くと文字化けしていたりする。そんな解読不能になった無意味な記憶は、クリスマスの夜にきっとキラキラと散らばって、未来の元彼氏たちを照らすのだ。それはもちろん、わたし以外の誰か別の人とともに。