二度寝なんてしなきゃよかった

方向音痴な三十路OLです。

川上未映子の女性号を買ったよ

 

早稲田文学増刊の女性号、
せめてわたしだけでもちゃんと読まなきゃと思ったけれど、
どうしてもその本をめくることができなかった。
後ろめたさなのか、
面倒くささからなのかわからなかったけれど、
読まないことで
読めなかった会長と
なんだか同じ世界にいられるような気持ちになるからだ
ということに気がついた。
わたしはどこまで行ってもバカだ。

 

部長がとつぜん「ちょっとみんな集まって」って言った瞬間、
もしかして会長が亡くなったのだろうか、と思ってしまった。

 

どうしてそういう悪いことはわかってしまうのだろう。
わたしのこの「わかったところでどうしようもないことに限って感づいてしまう能力」
は他の分野で生かせないのだろうか。
たとえばお客さんが来たことにいち早く気がついてコーヒーを入れるとか。
もしくは上司からの質問をあらかじめ想定しておいて、先に報告しておくとか。
そういうことにはめっぽう気がつかない。
いつの間にか仕事ができる周りの人に「もうやっておいたよ」なんて言われて
「いつもすみません…」とか言ってしょんぼりしてしまう。

 

お通夜と告別式の日程が社内の連絡網にすぐに掲載されて、
ひさびさに履く黒いストッキングに足を通す日の朝は
ものの見事に晴れていた。

 

わたしの経験するお葬式は、なんだかいつも晴れている。
まるで、わたしたちが身にまとう喪服の黒に負けまいとするみたいに
太陽がめいいっぱい光を浴びせようとするのだ。
何かと荷物がいつも多くなってしまうから
喪服用の小さいかばんはパンパンだった。
いつもと違う服。いつもと違うかばん。
いつもと違うその何かに身に包まれていることが気持ち悪くて、
何だか早く家に帰りたくなってしまった。
自分の肌によくなじんだ、
くてんくてんになったアルパカ柄の部屋着が恋しかった。


会長は川上未映子が大好きだった。

 

「今まで好きな作家聞いて、
 川上未映子っていう若い子はうちの会社にいなかったなあ、ああ、そう!」

 

どうやらサイン会に行くぐらい好きだったそうで、
わたしは本をあまり読まないし、
たまたま読んだ川上未映子が好きだっただけだから
その温度差にちょっと気まずくなったことを思い出した。


会長の病気療養中に
川上未映子が編集長をつとめた早稲田大学増刊の女性号を
渡そうかどうかとても迷っていて
けれど、会長に渡す用のもう一冊がどうしても手に入らなくて
それでけっきょく、渡せないまま会長は亡くなってしまった。

 

まあでもそんなのは言い訳でしかなくて
ほんとうのところは
本を持って行くことで
その行為を疎ましく思われるのが怖かった。

 

もう本を手に入れているかもしれないとか、
体調が悪いからかえって迷惑かもしれないとか
最初から私的な関わりでなく
会社での関係、それも役員ということもあって
よけいに色々考えてしまった。
考えているうちに、会長にはもう会えなくなってしまった。
けっきょく、買えなかったし、渡せもしなかった。

 

いや「買わなかったし、渡さなかった」が正しい表記だ。
わたしはそういう人間だ。

 

会長は女性号、読んだのだろうか。
きっと、読んでないんじゃないかなと思う。


「天国で読んでください」
なんていう都合の良い文章が思い浮かんだが、
わたしはこういうタイミングでこういうことを言う人は嫌いだ。
死んだ人は本を読むことなんてできないのだから
やっぱりわたしがあの時、何としてでももう一冊買って、
会長に送りつければ良かったんだ。

 

告別式のあいだ、わたしの瞳はずっと乾いていた。
会長は、とおく遠くのハワイかどっかにバカンスに行っていて
しばらく会えなくなってしまっているだけなんじゃないかということを考えていた。

 

棺桶にお花を入れるときに最後に見た会長は
抗がん剤の治療のせいで
びっくりするぐらいにやせ細っていて、
悲しいくらい、鼻筋が通っていた。
それはわたしの知らない会長だった。
やっぱりハワイに行っちゃったんじゃないかと
バカなことを思った。

 

わたしは頭が悪いから、
お別れということを理解するのに、
何日も、何週間も、何ヶ月もかかってしまう。
告別式からしばらくたったあと、
ようやく会長にもう会えないということに突然気がついて
お風呂場でワーッと泣いた。

 


会長が亡くなったこと
会長があんなにも痩せてしまったこと
渡せなかった本があったこと
もう一生それを渡せないということ
自分もいつかは死んでしまうということ
恋人もあんな風に死んでしまうということ
そういう、悲しくて、怖くて怖くて仕方がないこと
生きているうちはあんまり見ないで済ませてしまいたいもの
人が死ぬという物理的にも精神的にも大きな現象が
シャワーと一緒に
頭のてっぺんから足の先まで降り注いで
受け止めきれずこぼれたものが
涙となって、
とりあえずワンワン泣いた。

 

泣いているうちに、
どうして泣いているのか
よくわからなくなって
収集がつかなくなって
のぼせる前に
涙が止まった。

 

とりあえず
川上未映子の女性号は、
わたしが読もうが読ままいが
会長はもう読むことができないのだ。
死ぬってそういうことなんだ。

 

今年の秋はとても湿気が多かったけれど
それにも負けずに
女性号は波うたずに
わたしの本棚で凛と立っている。

 

 

就活で楽しく内定をとるには?〜説明会編〜

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こんばんは。
二度寝が大好きなアラサーOLです。

 

突然ですが、
就活って辛いものだと思っていませんか?

 

本当はものすごく楽しいし、
たくさんの会社を知ることができる貴重な機会なんです!

 

わたしが就職活動したのは2009年。
ちょうど就職氷河期の時でした。

リーマンショックの影響が直撃し
早稲田慶応といった高学歴の子達が
内定を取れずに苦労した年です。

わたしは一応大学は出ていますが、
有名でもなく偏差値も50そこそこ。
資格欄には「普通自動車運転免許」しか書いていませんでした。

 

それでも内定は5つも取ることができました!

 

就活はポイントを押さえれば
誰でも内定が取れるんです!

 


今回は説明会のコツから
お伝えします。

 

 

 

就活生はアイドルおたくを見習え!


みなさんアイドルは好きですか?

今やAKBを筆頭に地下アイドルまで
いろんな女の子がステージに立っています。

最近のアイドルは「会いに行けるアイドル」とも言われ
握手会がとても盛んです。

そう、たった何秒かもしれないけど
実際に会って、自分の顔を見てもらえる握手会は
ライブと同じくらい大事!!

もしかして何回も会いに行ったら
自分のことを覚えていてくれるかもしれない…。

あわよくば、そんなことも思いますよね。


そう!就活において、

面接がライブだとしたら
説明会は握手会なんです!!

人事担当者と気軽に話せる貴重な機会。

しかもCDを買わなくても話すことができる
この機会を逃すわけにはいきません。


ここで説明会で大事なことを
3点お伝えします。


①説明会では人事担当者の目の前の席に座れ!

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特に入社したい会社だったら最前列を確保し
人事担当者から顔が一番よく見える席に座ります。
そこで、話を相手の目を見ながら
うなづきつつ、よく聞きましょう。


例えばわたしは
「君、説明会のとき一番前に座ってたよね」
と面接のときに言われました。
たったそれだけでも、
・やる気がある
・時間に遅れない
・話をよく聞く子
という印象を持ってもらえたのかもしれません。
結局、その人事担当者が二次面接まで担当だったので
スムーズに面接は通りました。

 

 


②必ず何か質問して帰れ!

 

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わたしは恥ずかしがり屋です。
なので、みんなの前で手を上げて質問するとか苦手なので
説明会が終わった後に
人事担当者にこっそり話しかけて
質問したりしていました。

内容は何でもいいんです。

ここで大事なのは、
(1)あなたの会社のことが気になっています
というアピールをすること
(2)普段の自分を知ってもらうこと
のふたつです。


福利厚生施設に温泉があるというIT会社があって
「行ったことあるんですか?」とか
「温泉、どうでした?」とか
今思えばしょうもない質問を人事の方とおしゃべり
したことがあったんです。

そこで普段の私を知ってくれていたため、
面接当日に緊張していた私を見て
(その時は就活で初めての面接でした)
「この間、話したときとずいぶん違うね、
 緊張してる?」
と言われました。
「そうなんです。実は就活で今日が初めての面接で…。
 特に御社は第一志望なのでとても緊張しています。」
と答えたのを覚えています。

そのあとはスムーズに面接は終わり、
見事一次面接を通り、ここの会社からは内定をもらいました。

 


③それでも、自分のことは話すな!

 

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説明会は面接会場ではありません。
あくまでも人事担当者から何か聞かれたら答えれば良いですが
あくまでも「会社」主体の場所。
ここではひたすら「聞く姿勢」を貫くことが大切です。

これは持論なのですが、
「自分のことを話したい人」
「人の話を聞きたい人」
多いのはどちらだと思いますか?

わたしは前者なんじゃないかなあ
と感じています。

みんな自分のことを知ってもらいたいし、
興味を持ってもらいたいんです。

 

そう、就職活動は、
「自らが主体となって内定を取る」
のではなく
「人事担当者に内定を出させる」
のです。

つまり、人事担当者が何をして欲しいのか?

そのニーズを就活生は見極めて活動した方が
スムーズに内定を取れると思います。

また、たくさん自分のことを話さないメリットとして
「あの子、たくさん質問してくれて
 うちの会社に興味持ってくれてたな、
 どんな子なんだろう、面接で色々聞いてみたいな」
と思わせればもうこっちのモノ。

合コンでよくある
「盛り上げ役の隣で笑ってる女の子がモテる」
と一緒かもしれません。

自分の正体を明かさないことで
次(=面接)につなげるのです。


いかがでしょうか。

たかが説明会、されど説明会。

ぜひ、いろんな企業の説明を聞いて
いろんな人とお話ししてきてください!

きっと面白いはずですよ!

2017.10 diary

 


火薬の匂いがする

あなたの手に
にぎられた
誰かほかの
わたし以外の
女の乳房のあたりから
漂うその
けむたい匂いは
くたびれた体を包んで
ひどくわたしを眠たくさせた
きっとあの女のそれは
ちゃんと赤ちゃんを育てることが
できる機能を持っていて
それに嫉妬すらできず
わたしは過去の女
として成り下がるほかなかった

それより
拳銃はどこにあるのか
左手でずっとベッドのシーツの中を
まさぐっていた正午
殺そうと思ったんじゃない
あなたがこれ以上浮気しないように
ちゃんと植物人間にしてあげようと
思っていたんだよ



「友達なんだし

 彼氏がいても関係ないし
 
 たまには連絡してこいよ」



あと何%ぐらいの降水確率があれば
雨が降ってたと思う?
そういう仮定のはなしばかり並べて
きょう晴れているということを
全否定しながら
日々を黒く塗りつぶしていた
そのわりに塗り残しがけっこう残っていて
ちゃんと塗らなきゃダメじゃんって言いながら
あなたは中目黒の駅前で
わたしとさしている傘と
まったく同じ色の絵の具で
左手のくすり指の爪に
ていねいに色を重ねた

子どもだったわたしには
それが何を意味しているのか
よくわからなくて
どういうことだったのか
その意味を聞かなかったことを
今も少し後悔をしている
あと何%ぐらいの会話があれば
ずっと仲良くしていられたと思う?



 「いままでありがとうございました。
  
  お元気で。」



目の前に箱がある
プレゼントみたいな箱だ
けれど何が入っているのか
まったく予想がつかない
いかにもプレゼントらしい箱をしているから
かえってプレゼントじゃないんじゃないか
と思えるほどの様相をしている
正社員として働いてからは
欲しいものはだいたい自分で手に入れていて
あとは家と土地と
時間が欲しいだけになっていた
持ち上げると空気みたいに軽くて
何にも入っていないみたいだった

そういえばもうすぐ誕生日で
それまであなたと付き合ってるか
わからないけれど
それでもたぶん付き合っていると思えるのは
どうしてなんだろうね

理由はとくにないけれど
自分の誕生日を
何だかあなたに教えたくない
プレゼントも欲しくないし
その日にお祝いしてもらっても
どうせ次の日は誕生日じゃなくなっちゃうし
それだったら
人生でいちばん若い
今日現在のわたしのことを
お祝いしてくれても
いいんじゃないかっていう
ちょっと面倒くさいことを考えている

さっきから誕生日を
しつこく聞いてくるから
昨日!
とか
明日!
とか言った時の驚いた顔が
すごく面白かった

気にしなくていいよ
どうせ忘れるんでしょ
誕生日も
わたしのことも
きょうこんなにも
楽しかったことも


 「それで、ほんまのところ誕生日いつなん?」

 

 

大人になること、迷子でいること


甘ったれた三十代が歩く道に、親切な人ばかりではないと覚悟はしているけれど、今のところ、バイキンマンらしき人は全く見当たらない。わたしはかなりの方向音痴だ。最近でこそスマホに地図アプリが登場したおかげで、前よりかは道に迷うことがなくなったけれど、それでもやっぱり道に迷ってしまう。

ついこの間まで習い事をしていて、しょっちゅう渋谷に行っていた。ハチ公口を出たら道玄坂をのぼって、東急が見えたら右手方向にまっすぐ進むだけの道。けれど目的地ちかくになって、公園を右に行ったらいいのか左に行ったらいいのかいつも迷ってしまって、何ヶ月も通ったのに、習い事の最終日まで地図アプリに誘導されなければたどり着けなかった。

記憶力が悪いのかもしれない。いや、でも大好きな遠藤保仁選手が購入していた腕時計はウブロだったということや、お気に入りのぶどう味のグミにたまに顔が描いてあるグミが入っているということ、10年前に住んでいた部屋にゴキブリが何回出たとか、そういうことはしっかり覚えている。つまり、道なんてどうでもいいのかもしれない。本当に?いや、そんなことはない。おばさんが道に迷っていても、誰も幸せになれない。

どうして方向音痴なのだろう。まず、自分がどこにいるのかわかっていない。いや、今は家にいるっていうことはわかっているけれど、最寄駅がどっちか指さしできない。自分が北を向いているのか、南に向いているのかも知らない。そういえば、朝、太陽がダイレクトに差し込んで来ないから、窓は東側じゃないのかもしれない。北枕は良くないっていうから、北でもないのかもしれない。そうだ、コンパスアプリがあったなあと思って調べたら、まさかの北だった。わたし、北枕で寝てたんだ。まあ別にいいか。住んで7年ぐらい経ってるけど。と、こんな具合だ。

あと、地下鉄を出たところの地図に、出口が植物のゼンマイみたいにクルクルっと3段階くらいに曲がっているともう大混乱である。自分はどこから来たのか、どこを向いているのか、そしてここはどこなのか。そう、常に自分が向いている方向はただの正面であって、北とか南とかそういう概念がない。前、後ろ、右、左。すべてはこの4つで構成されていて、いつだって振り向けば、わたしの信じる方向概念のひとつである「前」は正面方向へ変わるのだった。

次に、進む方向がわかっていない。いくら親切な地図アプリがこっちだよと指し示してくれていても、その方向が自分の「前」と一致していないとわからなくなってしまうのだ。そう思って、アイフォンの矢印方向を自分の正面に合わせようとすると、くるっと画面がタテヨコ入れ替わってしまったりして、顔も一緒に横向きになったりする。いや、これはくるっとならないように設定すればいいだけのことだけど。

ちいさい頃から方向音痴だった。でもひとつ思うのは、訓練すればきっと方向音痴は治るのではないか、ということ。困ったことに、方向音痴で困ったことがない。東京には人があふれている。道がわからなくなったら、人に聞けばいいのだ。わたしは一人では目的地にたどり着けないから、渋谷でも、大阪でも、パリでも、ハワイでも、ところかまわず人に聞いてきた。世界中の人たちは、みんな親切だった。だから迷子にはなるけれど、行方不明にはならずにこうして生き延びている。そのたびに、自分が向いている正面は「前」ではないんだよ、と教えてもらって、方向転換してきた。今思えば、目的地よりも道を教えてくれた人の記憶のほうが色濃く覚えている。

何かあっても、きっと誰かが助けてくれると思っている。その根拠もない他人を信じる力がどんどんわたしを弱くする。ちょっとぐらいは強くなりたいなあなんて、一年のうち雪が降るぐらいの確率で思ったりもするけれど、世界中の人たちがあまりに優しくて親切で、びっくりするぐらい良い人が多いから、わたしは一生強くなることができない。ベッドを直さないで会社に出勤したため、北ではなく北北西ぐらいを向いた枕が、大人とは何かを問いかけている。

 

パンプスを買いに行ったよ


 今まで簡単にさようならしてきた何もかもは、形を変えていろいろな姿で目の前に現れていたけれど、ほんとうはすべて同じものだったし、同じ人だったのかもしれない。
 「二度寝」なんてふざけた名前してるけれど、いちおう社会人である。いや、正確には社会人ぽく生活している。ふつうの人が思う三十路OLってこんなものかなという想像のもと、それらしく振舞っている。中身は基本的にだらしないから秘密にしておくとして、とりあえずお局様に文句を言われない格好をしている。その中でも働く女性の必須アイテムは、パンプスだ。
 子どものころから、その履き物は嫌いだった。歩く音がカンカン言ってうるさかったし、見た目にも歩きやすそうじゃなかったからだ。さらに女性らしさをシンボルにしたかのようなその細いヒールに、自分の足もいつか乗せなきゃいけないのかと思うとゾッとしたし、えいえんに自分は子どものままでいいと、マジックテープで止められた紫色のスニーカーを見て思っていた。
 「あー、この足は大変ですね。」店員さんはわたしの足を見るなりそう言った。スポーツシューズを販売しているブランドが履きやすいパンプスも展開していると聞いて、わたしは30分以上も電車を乗り継いで新宿の百貨店まで来ていた。そう、合うパンプスがないのだ。スニーカーでさえ靴ずれする。というか、靴ずれなんてかわいい名前で収まりきらないくらいに流血してしまうから、それはもはや怪我レベルである。「サイズお測りしますね。」店員さんはていねいに採寸して、こう言った。「なかなか日本人でこういう足はいらっしゃらないんですよね。靴選び、大変ですよね。」
 靴には木型というものがあって、サイズはA〜EEEで表される。Aがいちばん小さくて、アルファベットが大きくなるにつれてサイズも大きい。日本人はだいたいEEが多いそうだが、わたしはC。長さは24.5cmと大きめだが、幅が狭いのだ。つまり、笹かまぼこみたいな足だということ。細いがゆえに高さのある靴を履くと必ず滑り、親指か小指が犠牲になる。結局、その店でもわたしの足に合うパンプスは無く、1時間ほど百貨店をウロウロしても靴は見つからないままだった。そのうちに、だんだん悲しい気持ちがこころを覆っていく。これだけ必死で探しても見つからない苛立ちもあったけれど、今週末に恋人と別れ話をする予定だったからだ。
 これまで人生でお付き合いしてきた人は、いなかったわけじゃない。少なくとも声をかけてくれる人は今まで何人かはいたわけで、それでもこうして誰とも長続きしていないということは、わたしの中身に何らかの重大な欠陥があるということを意味していた。相手が悪いのではない。いびつな形をしているわたしに、誰しもお手上げだったんだろう。ぴったりくるパンプスがなく、途方に暮れている姿が今の自分を何より端的に表していて、それに気がついた瞬間、絶望的な気持ちになった。
 そんな暗い気持ちで、最後の望みを持ってオーダーメイドの靴屋さんへ行った。そこでは長さも指定できるが、横幅も選べるところだったので、比較的ぴったりサイズのパンプスを購入することができた。試し履きとしてそのまま歩いて家まで帰ったのだが、最寄駅のホームに降り立った瞬間、かかとから血が流れ出ていることに気がついた。どんなに自分の足に合っているものを選んでも、靴ずれは起こってしまう。オーダーメイドでもこうなのだから、諦めるしかないのかもしれない。それは人間関係においても同じで、自分にぴったりくる人間なんてそもそも存在していないのだろう。いつも靴ずれが起きた時にはもうその靴を履くのをやめてしまうのだけれど、中敷きを入れたり、もう少し我慢して履いてみたりすれば良かったのだ。そうしないと、いつまでたっても、さようならしてきたわたしとさようならできない。明日、ちゃんと話し合おう。きれいなマルの形に皮が剥けたかかとに絆創膏を貼ると、薄ピンク色がガーゼを濡らしていった。

 


 

駅前


たくさんの後ろ姿が笑ったけれど
その古い服はいつまでも真面目な顔をしていた
腐ったポットを片手に持って
駅前であなたを待っている午後


地から天へ魚の破片が流れる
呼吸をし損ねた丸い跡
見えているのは多分
わたしが欠点だらけだから


その透明なくらげのような言葉で顔を洗う
バイオリンの斜光
春と夏のあいだで歌う白い人
ふいに訪れる区切れを追いかけた


フラフープの中で死を指折り数える
無理したピンクが世界から浮いて泣いているように
わたしも駅と駅の間で割れそうだ
その罅が現実を映せたら


急行に乗って帰ってくるはずの季節
酸素も無いその空白の穴の中で
乾いたお湯を流し続ける


昔のレントゲン写真を見れば
胸のかたちは何も変わっていない
偶然と鐘が泣くときに
足元にぽつりと雨が降る

 

意味は神様が食べてしまったけれど
少しだけ保温しておくよ
もう一度生きたいと思ったときのために

 

 

 

PMSを音楽にたとえてみた

PMSって知ってますか?

月経前症候群
生理前に訪れる、体や心のさまざまな症状。
今や検索すればわかりやすいサイトがいっぱい出てきます。
 
でもそれを読んだところで、
PMSじゃない人は、けっきょく雰囲気がつかめないと思うんです。
わたしだって、うつ病の人の気持ちや、ガンの人の痛みも、まったくわからない。
想像することはできるけど、その想像が合ってるかもわからない。
あともっと言えば、他人のPMSの辛さもわからない。個人差があるからね。
そう、あくまでもこれはわたしの個人的なケースとして読んでください。

というわけで、こういうときは音楽にすがるしかない!
いでよ、DJクマガイ!
今回は、わたしの大好きなミュージックで
PMSを紹介しちゃおうという
なんら科学的根拠のない、雰囲気のみの情報をお届けします。

 

 

 


リップスライム期】

こころの元気度 ★★★★★

からだの元気度 ★★★★★

 


RIP SLYME - GALAXY

 

 

生理が終わった後に10日ほど訪れる、やる気みなぎる日々。

からだもこころも元気なので、この期間にキャンセルできない予定を入れる。
海外旅行(ハワイ!)あと習い事(ヨガ!)
多少休まなくっても平気なので、土日も朝から晩までガンガン予定を入れる。

この期間にどれだけ予定をこなすかによって、
一ヶ月のタスクが完了するかが変わってくる。
お腹も毎日ペコペコ。
生きてるって素晴らすぃ〜〜!
そんなウザい台詞も自然と口にします。

そして、大事なことを決めるのもこの期間。
なぜならこの時期は冷静かつポジティブな判断ができるから。
この時期に恋人と「別れよう」と思うってことは、別れの根拠がきちんとそろっていることが多い。 
あと大きな買い物をする時もこの期間って決めてます。

 

 

リップスライム期の次は…

 【ジ・インターネット期】

こころの元気度 ★★☆☆☆

からだの元気度 ★☆☆☆☆

 


Gabby by The Internet with Janelle Monae

 

 

月に13日ほど訪れる、これがいわゆるザ・PMS

からだの症状として、まず熱が出ます。
平熱36.5のわたしが、37.7まで跳ね上がります。
ひどいときは38あったことも。
いやいや、よくそんな発熱しますよね。
この熱を自然エネルギーとして活用してもらいたいぐらいです。

「なんかだるい」「起きるのがつらい」「やる気が出ない」
今までは、自分の意思が弱いんだなと思っていましたが
きちんと熱を毎日測ったら思いのほかトゥーホットでして
これじゃだるくっても仕方ないなあと思うようになりました。

こころの症状としては、からだに引きづられるようにして落ちていきます。
熱があってだるいから1日のタスクが終わらない。
わたしって何てダメな人間なんだろう。
恋人や友達からお誘いが来ても、
「こんな体調悪いんじゃ、約束の日会えないのでは?」
などと考えなかなかYESと言えない。
保守的になってネガティブモードへ。

この時期は恋人に伝える言葉を選びます。
エモーショナルになりがちなので、クマガイ公式botを発動します。
会話の中身が多少つまらなくたって構わない。
とにかく無難なお返事を返すことに努めます。
大事なことも話しません。問題は先送り。
大丈夫、リップスライム期の自分が何とかしてくれます。
そうそう、この時期は冬眠しているくまさんをイメージして
ひたすらじっとしている他ないんです。
春、まだかなあ。(いや、この場合は生理か。)
 
ただひとつだけ良いことがあります。
感受性がひどく敏感になっているので、文章を書くならこの時期。
通常の自分からは生まれない、
もしや別人格なんじゃないか?というぐらい自分からかけ離れた文章を書くことがあるのです。

 

 

鬼束ちひろデー】

こころの元気度 ☆☆☆☆☆

からだの元気度 ☆☆☆☆☆

 


鬼束ちひろ 月光

 

生理直前に訪れる、こころもからだもヤバイ1日。

「こんなもののために生まれたんじゃな〜〜〜い」

いや、まさにそんな感じ。

 

この日はとにかく眠れない。
睡眠不足からなのか、
朝から吐きます。(汚くてゴメンなさい)
もしくはお腹を壊してる。
正直、風邪ひいてる方がいい。
でもこれは病気じゃないから、休むわけにはいかないのよね。
一般的に認知されてる体調不良(風邪とか)って休めるけど
マイノリティな体調不良って、知られていないから休みづらい。

 

こころの状態としては、
ドラマの撮影で涙のシーンが来れば
何にも悲しいことがないのに一瞬で涙がドバーって出るくらい
非常に涙もろい状態です。
ブサイクな大根女優、ここに誕生。
たとえスズメがチュンチュン空を飛んでいる平和な1日だとしても
わたしのこころの中で自転しているハートオブ地球は壊滅状態。

 

鬼束ちひろデーのときは、
とにかく風景に溶け込むようにしている。
私は壁紙。私は公園の木。私はあなたの椅子にかかってるカーディガン。

 

このあいだ、ちひろデーにお酒を一口飲んだら
まっすぐ歩けなくなるくらい泥酔するという珍事を起こしたので
この日は飲み会の約束を避けることを固く誓いました。


【余談】
三ヶ月に一度くらい
鬼束ちひろデーにとって代わって
プロディジーデーが発生することがあります。
何をしてても腹がたつことばかり。

富士山大爆発。
いや、何とも恐ろしいこっちゃ。
 


The Prodigy - Omen (Official Video)

 


くるり期】

こころの元気度 ★★★★★

からだの元気度 ★★★☆☆

 


くるり-Remmber me / Quruli-Remember me

 

一週間ほど続く。イッツ・生理。

「Do you remember me?」

いや、忘れるわけないじゃないですか。
生理さん、あなたが来るのをずっと待っていましたよ。
恐怖のちひろデーを抜けた安堵感。
 
ちょっとときどき、お腹がイタタタ・・・ってなることはあるけど
まあそんなのはいいさ。
あとやたらおならが出るときもあるけど
まあそんなのも別にいいさ。
 
やっと熱も36.5に下がり、
元気満タンとは言えないけど、
いつもの自分が戻ってきます。

このくるり期は
来るべき素敵なリップスライム期に向けて
計画を立てるのにもってこいの時期です。
あれもしよう、これもしよう。
ちょっとぐらい辛いことがあってもどうにかなる。
あんまり食欲はないけど、
今日はパスタぐらい食べようかな。
そんな感じ。
 
そうして、またリップスライム期に戻っていきます。


 ※

よくこういうPMSのサイトとかって、
「女の子はこんな大変なんだから、男の子はわかってあげてネ!」
的なあとがきで締めくくられてることが多くて
あれ、何かすごくモヤモヤするんだよね。

何でだろうって考えて、
おそらく自分自身でもPMSを受け止めきれていないからだと思う。
特に突然の鬼束ちひろさん。
だ、誰やねん!?てなるし、
そんな自分を受け入れるのに、少し、というか、かなり抵抗がある。

そんな鬼束ちひろさん的な自分を、
恋人や男友達に「わかってね!」なんて軽々しく言えるわけない。
 
わたしから言えることとすれば、
いつもは優しい彼女が
どうも様子が変。言い方がきつい。
ということになったら、すぐに言い返すのではなく
一晩、熟成しておいてもらって、
燻製になってから後日、冷静に話し合ってもらいたいということ。
 
次の日にはくるり期がきていて、
落ち着いているかもしれない。
そして、こんな彼女嫌だ!もう別れる!
となった時には、リップスライム期の彼女を思い出してほしい。
わかってくれなくてもいいし、受け入れてくれなくたっていい。
だけど、時間がたてばいつもの彼女が戻ってくる(かもしれない)

ということを知っておいてもらえるとまた見方が変わってくるのかな、と思います。



今回、リップスライムを含めていくつかのミュージシャンを紹介しましたが、
ここに掲載しているアーティストは全員大好きです。
特にいちばん辛いはずのPMS期のジ・インターネットは特にお気に入り。
あと鬼束ちひろさんも若い頃よく聴いていました。
いろんな気分があって、いろんな自分がいて
だからこそ色んな音楽を聴ける自分がいることに感謝しています。
PMSなあなたも、そうじゃないあなたにも
素敵な音楽がそばにいることを願って。